人工光合成の原理


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人工光合成の原理

実用可能な「人工光合成」の定義

実用可能な「人工光合成」の定義 植物は太陽光エネルギーを使って水と二酸化炭素だけで、自らの生命維持に不可欠なグルコース類と酸素を生成しています。つまり、無尽蔵の太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い、その電子を二酸化炭素へ送り込んで化学エネルギーに変換し元の材料よりもエネルギー量の多い高エネルギー物質として貯蔵しています。
従って、「人工光合成」とは太陽光エネルギーを使って水と二酸化炭素から、高エネルギー物質を生成することと定義できます。つまり、紫外線を使った「人工光合成」は研究段階では成功していますが、実用化という点では問題があります。紫外線は太陽光に数%しか含まれていないからです。
その意味から、今後の「人工光合成」の研究は実験室の中だけの「人工光合成」の実証から、無尽蔵の自然の可視光である太陽光を使った実用可能な「人工光合成」でなければ意味が無いということになります。つまり、「人工光合成」の研究も実用化を睨んだ新たなステージに入っているのです。

「人工光合成」の3つの原理

「人工光合成」の3つの原理 現在の「人工光合成」研究は、大きく分けて3つの原理に分類されます。
まず、1つ目は植物の「光合成」を人工的に利用する研究です。最終的に自然の「光合成」よりも効率の良い「人工光合成」が実用化されない限り、植物を効率的に栽培する方法を研究する方が現実的だからです。
そして、2つ目は「ホンダ・フジシマ効果」で知られる半導体による水の光分解を発展させた研究です。しかし、こちらの研究は実用化のメドが立っていないのが現状です。
3つ目はクロロフィルにヒントを得た金属錯体を光触媒として用いる研究です。
現在、いずれの方法でも日本の研究は世界をリードしていると言えますが、特に、首都大学東京の井上晴夫特任教授たちの金属錯体を光触媒として用いる方法が注目されています。
「これまでの金属錯体を用いた人工光合成の研究には、まだ解決しきれていない問題が多くあります。中でも最も大きな問題が水からどうやって電子を取り出すかなのです。紫外線を使えば問題は軽減しますが、紫外線は太陽光に数%しか含まれていません。太陽光エネルギーを有効に使いこなすためには、その大半を占める可視光を利用する必要があるのです」と井上晴夫特任教授は強調しています。
1982年に米国で金属と非金属の原子の化合物である金属錯体を使って、水から4つの電子を取り出す方法が開発されました。
しかし、これも決定打とはなりませんでした。1つの電子を取り出すには1つの光子が必要で、4つの電子を取り出すには4つの光子が要ります。ところが、光子は雪のように秒単位の間隔を空けて1つずつゆっくりと降りてくるため、次の光子を待っている間に金属錯体の反応中枢が活性を維持できなくなってしまうのです。
そこで、井上教授が発見したのが「1光子2電子酸化反応」と言われる反応です。
「1つの光子で、1度に2つの電子を取り出すのです。4つの光子が降ってくるのを待つ必要がないため、希薄な太陽光でも反応を維持できます。しかも、水から2電子を取ると、残った酸素が活性化され、エポキシ化合物などの有用な酸化生成物ができます。酸素が発生するよりも、このほうが有益であり、かつ無害なのです」と井上晴夫特任教授は説明します。
つまり、「人工光合成」の実用化が少し現実味を帯びてきたと言えます。