日本の官庁は縦割り行政と相場が決まっていますが、最近の財政赤字拡大と国力の低下で官庁の考え方にも変化が見られます。
「人工光合成」研究でその様な素地を作ったのは、ノーベル化学賞に輝いた根岸英一・米パデュー大特別教授だったことは既に述べました。根岸教授は受賞直後に文部科学省幹部に直談判し国家プロジェクトを立ち上げる約束を取り付けました。
その後、経済産業省と文部科学省は連携して10年間で約150億円の予算投入を決定し、併せて2028年度末に3%・2033年度末に10%の「人工光合成」のエネルギー変換効率を達成目標に掲げました。
「An Apple」とはAll Nippon Artificial Photosynthesis Project for Living Earthの略で、
「首都大学東京人工光合成研究センター」の井上晴夫特任教授を中心に、オールジャパンで「人工光合成」の研究開発に取り組む「An 新学術領域研究「人工光合成」)のチームを意味します。
「An Apple」には文部科学省科学研究費補助金が付き多重・多層の異分野の研究者が連携することによって、誰もが自由に登れる「人工光合成」の頂きへの道を拓こうとしています。
「An Apple」のオールジャパンのチームリーダーとしての井上教授のビジョンは、「初登頂、一番乗りを目指してしのぎを削るぎりぎりの研究レースが、ブレークスルーを生み出してきたことは必ずしも否定はしません。しかし、人工光合成の実現はそういう次元で語られるスケールを超えた、人類の“グランドターゲット”なのです。しのぎを削る闘いよりも、他者の研究成果を尊重して、切磋琢磨する連携姿勢から新たな局面が開けてくる。一分野の成果に期待するよりもむしろ、多分野の革新が重なって初めて、目指すべき頂きへの道が見えてくるでしょう」と語っています。
つまり、現在の「An Apple」は文部科学省科学研究費補助金を原資に、大学と企業の研究者が「人工光合成」実用化の研究を行うオールジャパンチームなのです。
現在、日本の「人工光合成」の研究は間違いなく世界の先端を走っています。今後、激烈な世界の研究レースの中で、この様子ならばトップランナーの座を明け渡すことはなさそうです。