人工光合成の歴史・原理・用途などを紹介


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人類の未来を救う「人工光合成」という夢のシステム

地球生物の営み

地球生物の営み地球に存在する酸素は植物などの「光合成生物」によって作られています。
ちなみに、海の中の海洋性植物や地上の植物から1年間に作られる酸素の量は、約2,600億トンと言われています。そして、地球の大気に存在する酸素の全量は約1,200兆トンと言われていますから、約4,600年かけて地球上の全ての酸素が一回循環する訳です。
つまり、地球上の生物の営みは植物などの「光合成生物」が作る酸素と、人間などの動物が消費する酸素の微妙なバランスの上に成り立っていると言えます。
更に、「光合成」は太陽光と水と二酸化炭素から有機物を作り出しています。
自然界の植物などの「光合成生物」は「光合成」によって有機物を作り出し、その有機物を養分にして成長しています。そして、その植物の実や種や茎や根を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べる食物連鎖が出来上がっています。
現在、その食物連鎖の頂点にいる私達・人類は植物や動物から食を得ているだけではなく、地球から石炭や石油などのエネルギー源を得ていますが、それらのエネルギー源も元を辿れば植物や動物の死骸が堆積したものなのです。
つまり、それらの食やエネルギーの全ては、元を辿れば植物などの「光合成生物」が「光合成」によって作った酸素や有機物に依存している訳です。
従って言い換えれば、人類の営みは植物が「光合成」によって作った酸素と有機物を、一方通行で二酸化炭素に変換する営みとも言えるのです。
その様な地球生物の自然な営みのバランスが取れている内は何の問題もありませんが、現在の地球の大きな問題点は人類の身勝手な営みによって増え続ける二酸化炭素が46億年という古来からの地球のバランスを崩していることです。
そこで科学者の誰もが夢見ているのは人工的な「光合成」が実現できれば、無尽蔵の太陽エネルギーと不要な二酸化炭素から食物やエネルギーとして使える有機物と酸素を作り出すことができることです。
つまり、「人工光合成」は無尽蔵の太陽エネルギーと不要な二酸化炭素と水という無尽蔵でコストの掛からない原料から、酸素や有機物を作り出す正に一石三鳥の夢の様な究極のエコロジーサイクルなのです。

人工光合成は人類を救う

古くから人類はエネルギーの奪い合いで戦争を繰り返してきました。それは20世紀に始まったことではありません。我が国に於いても、第二次世界大戦に至る最も大きな要因は欧米列強の経済制裁によって原油の輸入を止められたことでした。
また、今日のEUは1951 年に設立された「欧州石炭鉄鋼共同体」を前身としています。長く戦争を繰り返してきたフランスとドイツが戦争の継続に不可欠な石炭と鉄鋼を共同で手当てすることにし、ヨーロッパで二度と戦争を起こさないことを決意したのです。
従って、エネルギー資源の争奪戦が無くなれば多くの戦争は回避できる筈なのです。
つまり、無尽蔵の太陽エネルギーと不要な二酸化炭素と水からエネルギーと酸素を作り出すことに成功すれば、「人工光合成」は人類の未来を救うことになるのです。
現在、1年間の人類のエネルギー消費量を1とすれば全化石資源量は300〜400で、石油に至ってはあと40しかないと言われています。
これに対して地球表面への太陽光エネルギーの照射量は、人類のエネルギー消費量の1万倍もあるのです。

人工光合成

人工光合成「光合成」は46億年の地球の歴史の中で培われてきた驚異のシステムですが、それを人工的に再現しようとしているのが「人工光合成」です。
つまり、「人工光合成」は太陽エネルギーと二酸化炭素と水から酸素と有機物を作る古来からの「光合成」を再現することを意味しますが、広義の「人工光合成」には太陽電池や太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する反応を含みます。
その意味では人類の「人工光合成」研究の歴史は、既に、200年近くに渡っていますが、現在、世界的にその研究をリードするのは日本とアメリカなのです。
特に、2011年に「大阪市立大学」の神谷信夫教授が発表した論文が、世界的な「人工光合成」の研究競争に火を付けました。植物が「光合成」で水を分解する際に、触媒として働く「マンガンクラスター」という物質の原子構造を初めて突き止めたからです。
従って、「マンガンクラスター」に似た構造の触媒を作れば「人工光合成」が実現に近づくため、新たに世界中で「人工光合成」の研究競争が始まったのです。
また、これまでは室内で紫外線などの疑似的な太陽光を使った実験にとどまっていましたが、2012年12月に「パナソニック」は屋外の自然光での「人工光合成」の実験に成功し単純な有機化合物のギ酸を作り出すことに成功しました。
更に、2013年5月にはトヨタ自動車グループの「豊田中央研究所」(愛知県)も、方法や条件が異なる「人工光合成」の屋外実験でギ酸の生成に成功し実用化へ大きな一歩を踏み出しました。
「人工光合成」はこれらの無尽蔵な資源から燃料になるメタノールや化学製品の基礎原料となるエチレンなどの多様な物質を、原材料費ほぼゼロで生み出すことができる夢のエネルギーサイクルなのです。
この様な大学や企業の「人工光合成」の研究の目覚ましい進展の背景には、国を挙げての支援体制が出来上がっていることを忘れてはなりません。
その素地を作ったのはノーベル化学賞に輝いた「根岸英一・米パデュー大特別教授」が受賞直後に「資源が乏しい日本は人工光合成に注力すべきだ」と文部科学省幹部に直談判し、国家プロジェクト立ち上げに繋がりました。
この様な「人工光合成」の研究の過程を知ることは大変意味のあることです。
そして、「人工光合成」という夢のシステムが実用化されるのは一体、いつごろなのでしょうか?
更に、一体、どこの国が「人工光合成」という夢のシステムを実用化させるのでしょうか?
以下で詳しく見ていきます。